しなの荘別館改修工事/観光庁高付加価値化事業
しなの荘 https://www.tsunan-kanko.co.jp/
新潟県津南町。千曲川が信濃川へと名を変えるあたりに位置し、自然に囲まれた客室11室の湯宿です。宿泊室から見える信濃川と山里の四季折々の風景は格別。本プロジェクトは雪国観光圏や地域と一体となって観光庁高付加価値化事業に挑戦しました。本事業によりしなの荘別館は「間取りや趣の違う5つの宿泊室・落着きのあるラウンジ・美しい外観」へと生まれ変わりました。
外観改修
庭園西側ではキャンプ場を営み、20~40代のお客様が数多く利用しています。キャンプ場からは庭園の桜並木やシンボルとなる別館を眺めることができます。キャンプをしながらただ眺めるだけで癒されるような、また次は旅館で宿泊したいと思えるような自然と調和した建築を目指しました。ただ宿泊室の窓を入れ替える部分的な修繕ではなく、耐震性や内部空間の快適性に配慮しつつ別館全体を改修範囲としました。この地域の魅力である美しい雪との色彩対比や、南西側の庭園を彩るサクラとの調和に配慮しました。具体的には1階から2階まで全面を杉下見板張で統一を図り、シンプルにサクラの幹と同色に染めた単色の色彩計画としました。またランダムに配置された既存エアコンの室外機を整えて配置して、外観の美しさや除雪管理しやすさに配慮しています。外観改修工事によって、周辺環境と調和した美しい風景を目指し、外部にも裨益する大きな効果を与えることができました。
別館ラウンジ
既存廊下の先は人工照明のみで明りを補っていたため、間仕切壁を解体して、大きな窓を設けて、自然の光と風を引込む計画としました。窓からは庭園や桜の木、そして山並みに続き自然風景を堪能できるようになりました。この心地よい窓辺にラウンジを配置して、座ったりヨコになってくつろげるように小上がり畳を計画しています。ただ廊下の延長であると床に座ることに抵抗が生まれてしまうため、小さな段差を計画して、和紙照明で足元を優しく照らすように配慮しました。椅子やソファではなく畳に座ることで、視線が下がり開口部への視野が広がる効果や、家具の圧迫感がなく視線が抜けて、より自然風景を堪能できる効果を得ています。同様にエアコンを天井面より上に配置して、視線の抜けに影響が無いように配慮しました。本館ラウンジと別館ラウンジを配置することで、他のお客様と少し距離を置いた居場所ができました。日帰り温泉のお客様も利用可能。静かな別館ラウンジで、自然を堪能しながらゆったりとしたひと時を過ごすことができます。
すずらんの部屋
既存のコンパクトな二つの宿泊室を、ゆったりくつろぐことができる一つの宿泊室に改修しました。すずらんは居間と寝室の二間続きの宿泊室。「居間」は整った8帖の畳の間に、無垢材の円形こたつを配置して、日本の伝統的な和風建築の居間を基本としました。そしてインバウンドのお客様に馴染みのあるソファを窓辺に配置しています。ソファは色彩やディテールを入念に検討して、和の空間に溶け込むようにデザインしています。しなの荘の庭園は四季折々の自然風景が美しく、その風景を最大限に堪能できるように、落ち着いた雰囲気で丁寧に計画しました。「寝室」は大きな窓と障子3枚を引込める組合せで開口部をデザインしています。自然採光が緩やかに奥へ届くように、美しい光のグラデーションを演出しています。またインバウンドのお客様に配慮してベッドを常設。更にこの地でしか味わうことができない「雪の魅力に触れ合う雪テラス」を計画しました。屋根の付いた安全なプライベートテラスで、日常生活から離れて自分と向き合い、心と身体をリラックスする「雪国リトリート」を体験することができる宿泊室となりました。
りんどうの部屋
窓からは庭園の池や島、桜の木、四季折々の山並みを眺望できます。この敷地のポテンシャルを活かすように開口部を丁寧に設計し、同時に「窓辺の豊かさを堪能」してもらえるようにデザインソファやカウンター、小上がり畳を配置して、心地よい居場所を計画しました。他の部屋と共通して天井仕上げは既存のまま。しなの荘の世界観を保ち、どこまで改修したのかわからないほど新旧を調和させました。落ち着いた室内空間をつくるために自然採光や照明計画にもこだわり、光のデザインを丁寧に行いました。またすずらんと同様に、この地でしか味わうことができない「雪の魅力に触れ合う雪テラス」を配置することによって「雪国リトリート」を体験することができる宿泊室となりました。
はぎの部屋
観光や雪国リトリート目的だけでなく、仕事で長期滞在(連泊)しやすいレイアウトの宿泊室を用意しました。メイン動線に長いロングカウンターとベンチを配置して、パソコンや読書をしたり、お茶を飲むことができます。このロングカウンターとベンチは視線が大きな窓に抜けるように、また和の空間に圧迫感を与えないように、2枚の板が水平ラインで軽やかに存在するようにデザインしました。広縁は大きな窓と畳の間、円形コタツで居場所をつくり、窓辺の居心地の良さを体感してもらえるように構成しました。大きな窓を配置することで1階では味わえない2階アイレベルで自然風景(雪景色)を最大限に堪能できます。
ききょうの部屋
雪国の歴史や文化を空間体験してもらうことを目的として、昭和時代の面影を残し「既存建具・窓・和紙ブラインド」を改修し、新旧が美しく感じられる空間を目指しました。自然へ開く。壁や天井はあえて既存のままとして落着きを演出しました。よって明るい窓辺から奥に向かってうす暗くグラデーションがかかり、洞窟や、雪国の「かまくら」の要素を得た空間を構成しました。クリエイターに問いかけるような雪国空間をつくり、高付加価値の体験を生む計画としました。ミニマムサイズで1人~2人のお客様に向けた宿泊室となっています。
きくの部屋
ききょうと同様に、雪国の歴史や文化を空間体験してもらうことを目的として、昭和時代の面影を残し「既存建具・窓・和紙ブラインド」を改修して、新旧が美しく感じられる空間を目指しました。2階の角部屋で信濃川を一望できます。より一層美しい自然風景を堪能できる宿泊室。中心には木製テーブル+座布団を配置して、床に座る日本式スタイルを基本としています。2人~4人のお客様用で、余白にゆとりのあるリッチな宿泊室となっています。
用途 :旅館
種別 :改修
所在地:新潟県津南町
設計:大平政志建築設計事務所
施工:有限会社大平木工
撮影:Studio Couleur、栗田萌瑛、大平政志
補助事業 :観光庁高付加価値化事業2023年